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広島地方裁判所 平成5年(行ウ)2号 判決

広島市南区段原南一丁目一一番一〇号中島太郎方

第一事件原告

西本松代

東京都世田谷区東玉川二丁目一九番一〇号

第二事件原告

水田健治郎

右両名訴訟代理人弁護士

中原秀治

黒川達雄

広島市南区字品東六-一-七二

第一、第二事件被告

広島南税務署長 大成一貴

右指定代理人

森岡孝介

大北貴

高地義勝

小林重道

主文

一  被告が昭和六三年六月二九日付けで第一事件原告西本松代及び第二事件原告水田健治郎に対してした西本一雄に係る昭和六一年分所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(第一事件)

1 主文第一項中、第一事件原告西本松代に関する部分と同旨

2 被告が昭和六三年六月二九日付けでした右原告に係る相続税の更正決定処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

(第二事件)

1 主文第一項中、第二事件原告水田健治郎に関する部分と同旨

2 被告が昭和六三年六月二九日付けでした右原告に係る相続税の更正決定処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  第一事件及び第二事件原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は右原告らの負担とする。

第二第一事件及び第二事件の請求原因

一  第一事件原告西本松代(以下「原告西本」という。)は、昭和六一年三月七日死亡した西本一雄(以下「一雄」という。)の妻であり、第二事件原告水田健治郎(以下「原告水田」という。)は一雄の子である。

二  被告は、亡一雄に係る昭和六一年分の譲渡所得の総収入金額は三〇〇〇万円であるとして、別表1、2記載のとおりそぞれ所得税決定処分(以下「本件所得税決定処分」という。)を行い、これについてそれぞれ無申告加算税を賦課決定した(以下「本件無申告加算税賦課決定処分」という。なお本件所得税決定処分と本件無申告加算税賦課決定処分を併せて「本件所得税等決定処分」という。)。

三  また、被告は、原告らに対し、相続税の各更正(以下「本件各更正処分」という。)及び各過少申告加算税の賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。なお、本件各更正処分と本件過少申告加算税決定処分を併せて「本件各更正等処分」という。)を別表3、4記載のとおり行った。

四  その他右各処分等の経過は別表1ないし4記載のとおりである。

五  しかし、被告がした本件所得税等決定処分は、いずれも存在しない一雄の譲渡所得(後述の本件建物の譲渡代金)を誤って認定した上でなされたものであるから違法であり、また本件各更正等処分は、右誤った認定を前提としてなされたものであるから違法である。

よって、本件各処分の取消しを求める。

第三右請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一ないし四の各事実は認めるが、同五の主張は争う。

二  被告の主張

1  本件譲渡について

(一) 一雄は、昭和六一年二月九日又は同日から同年三月七日までの間に、同人の所有にかかる広島市南区比治山本町一〇四五番地一二(以下「本件土地」という。)所在の建物(木造瓦葺平屋建居宅四四・六二平方メートル、以下「本件建物」という。)と同建物敷地の借地権(以下「本件借地権」という。なお本件建物と本件借地権とを併せて「本件建物等」という。)を株式会社山二商店(以下「山二商店」という。)に代金三〇〇〇万円で売却した。(以下「本件譲渡」という。)。

(二) 仮にしからずとしても、一雄は、右二月九日から同年三月七日までの間に長男の西本雄一郎(以下「雄一郎」という。)に対し本件建物等の売却について明示ないし黙示の委任ないし代理権の授与をし、雄一郎がこの委任ないし代理権に基づき一雄に代わって右(一)のとおり山二商店に売却した。

(三) 仮にしからずとしても、一雄は、同人の態度や行動等からして、右売買契約につき明示又は黙示の追認をした。

(四) 仮に、本件建物等の売買契約に瑕疵があっても、本件建物等の資産が一雄の手を離れて山二商店に移転され、右売買契約によって経済的成果が生じている以上、本件につき課税要件は充足されている。

(五) したがって、一雄の譲渡所得の総収入金額は三〇〇〇万円であり、取得費は租税特別措置法(昭和六二年法律一四号による改正前のもの)三一条の四の規定により右収入金額の一〇〇分の五に相当する一五〇万円となるから、これを控除した残額の二八五〇万円が長期譲渡所得の金額となる。

また、相続開始日である昭和六一年三月七日現在では右代金三〇〇〇万円は回収されていなかったから、当該未収金を一雄の相続財産に加算して行った本件各更正処分も適法である。

2  本件譲渡(売買)が無効であった場合における本件建物等の取扱い

本件建物等は一雄の遺産に算入される。

(一) 本件建物等の価額は、本件建物等の時価と考えられる前記売買代金三〇〇〇万円を下らないと評価される。これは、本件土地が株式会社各務原物産(以下「各務原物産」という。)からロッコーマンション株式会社へ二億七一四〇万円で売却され、山二商店は借地権の価額として一億三四二〇万円を取得しており、これを後記のとおりの本件建物の建築面積割合で按分すれば明らかである。

(二) 仮にしからずとしても、次の(1)、(2)の合計額一一〇七万〇八二三円が本件建物等の価額であり、これが右相続財産に加算される。

(1) 本件建物に付着する借地権(一雄が昭和二〇年秋ころまでの間に、訴外田口ムメヨ外一名から賃借したもの)の価額

昭和六一年分の路線価図の正面路線価(一五万五〇〇〇円)に側方路線価(一四万円)に側方路線影響加算率〇・〇七〇を乗じた金額を加算して更地としての単価を求め、これに昭和六一年分相続税財産評価基準に定める借地権割合〇・五五と土地の総面積五五七・四三平方メートルを乗じて土地全体に対する借地権の価額(五〇五二万五四五五円)が算出される。本件建物の建築面積四四・六二平方メートルは右土地上の建物三棟の総建築面積一四三・七八平方メートルの三一パーセントであるから、その割合を乗じ、さらに租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)六九条の三に規定する割合である一〇〇分の七〇を乗じたものが遺産の額に算入される借地権の額(一〇九六万四〇二三円)となる。

(2) 本件建物の価額

固定資産税評価額(一〇万六八〇〇円)に倍率一・〇を乗じた金額が相続税評価額となるから遺産の額に算入される建物の価額は一〇万六八〇〇円となる。

3  本訴で新たに主張する一雄の相続財産

(一) 有価証券約二七〇〇万円

(二) 預貯金の額を六八万七二七八円から一〇八万七二七八円に変更

第四被告の主張に対する認否及び原告の反論

一  被告の主張1の(一)の事実のうち、一雄が本件建物を所有していたことは認めるが、その余の事実及び同(二)ないし(四)の事実は否認する。

乙第五号証の不動産売買契約書(写し)の売主西本一雄の署名部分にうっすらと用紙貼付の痕跡が窺え、また、二月九日は一雄が救急車で入院した日であり、右契約書に一雄が署名することは不可能である。雄一郎が本件建物の登記名義の変更を言い出したのは同年三月五日である。雄一郎は一雄が死ねば原告水田が相続人としての権利主張をすることを恐れたが、一雄の正常な判断による委任が得られない状態になったため、原告西本に「三〇〇〇万円で買い取る。」等と虚言を弄して一雄の実印等を出させて右売買契約書や委任状等を偽造したのである。

また、一雄は、本件売買契約を追認したと解されるような法律上及び事実上のいかなる行為もしていない。ただ、病気で入院していたのみである。

二  同2の(一)の本件建物等の時価及び同(二)の(1)の事実は否認する。本件土地は、山二商店が昭和二八年ころ借り受けたものであり、一雄は本件建物の敷地につき借地権を有しない。

仮にしからずとしても、山二商店が本件土地所有者の各務原物産に一か月一二万円の地代を支払っており、少なくとも各務原物産が所有者となった昭和五四年からは、同社と山二商店との間で、もしくは右両会社に一雄を加えた三者の間で、本件借地の契約当事者が山二商店と各務原物産であることを確認した。

本件建物等の譲渡代金が三〇〇〇万円とされたのは、本件譲渡を計画した雄一郎が租税特別措置法三五条の居住用財産の譲渡所得の特別控除に関する規定を誤解して、本件譲渡においても同規定の適用があるものと思い、売買代金を三〇〇〇万円としておけば、本件譲渡には課税されないと考えたからであり、右代金は形式的なものである。

同2の(二)の(2)の事実は認める。

三  同3の(一)の事実は否認する。被告主張の有価証券は山二商店が保有するものである。

なお、仮払金四五四八万三四七二円については、本件建物の売買代金相当額の三〇〇〇万円が何らかの形で貸付金とされていると思料されるから、本件売買契約が無効であれば、当然三〇〇〇万円は右仮払金から控除されるべきである。

第五証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因ないし四の事実及び一雄が本件建物を所有していたことは当事者間に争いがない。

二  そこで、一雄が被告主張のように本件建物等を山二商店に売却したか否かについて判断する。

1  被告は、一雄と山二商店との間に右売買が成立した証拠として、乙第五号証の売買契約書(写し)を提出しているので、右契約書中の売主欄の西本一雄の署名捺印を一雄がしたか否かについてまず検討する。

(一)  原本の存在及びその成立に争いのない乙第一一ないし第一三号証によれば、雄一郎は、本件原告ら両名を原告ら、被告を雄一郎とする昭和六二年(ワ)第八〇二号損害賠償請求事件の本人尋問において、「本件建物の所有権移転登記の委任状は一雄が尾鍋外科病院で署名し、原告西本が捺印した。売買契約書は代金一五〇万円のものを作った記憶があるが、同契約書には一雄が署名捺印している筈であり、そういう記憶をしている。日にちは昭和六一年二月九日で、場所は尾鍋外科病院だと思う。甲第一五号証(本件の書証番号)の〈5〉の写真に撮影されている取締役会議事録も二月九日に作成されたようになっているから同日作成されたことに間違いないと思う。」と供述したことが認められる。

しかし、右乙第一二号証及び成立に争いのない甲第一六号証によれば、一雄は昭和六一年二月九日肝臓癌で尾鍋外科病院に入院し、雄一郎は同日の夜岐阜県各務原市から広島市に帰って来たことが認められるので、同日乙第五号証の売買契約書を作成し、一雄がこれに署名することは殆ど不可能であると考えられるところ、これが可能であったことについて雄一郎は全く説明していないので、右各書面が右二月九日に作成されたとの右供述は信用できない。また、前記委任状の西本一雄の署名(甲第一五号証の〈1〉の写真中のもの)と乙第五号証の売買契約書中の西本一雄の署名の筆跡が異なることは明らかであるから、右署名がいずれも一雄のものとする右供述は信用できない。また、売買契約書中の売主の署名を一雄がしたことについてもその供述内容は具体性を欠くうえ、右供述は代金を一五〇万円とした売買契約書についてなされたものであって、代金三〇〇〇万円の売買契約書についてのものではない。弁論の全趣旨(前記別件の乙第五号証)によれば、甲第一五号証の〈5〉の写真に撮影されている取締役会議事録は、代金を一五〇万円とした売買契約の承認に関するものであることが認められるので、右供述を代金一五〇万円でなく三〇〇〇万円の売買契約書についてなされたものと直ちにいうことはできない。

(二)  原告西本本人尋問の結果によれば、乙第五号証の売買契約書中の西本一雄の署名は一雄の署名に似ていることが認められるが、原本の存在及びその成立に争いがない甲第一〇、第一一号証、右本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第八号証及び右本人尋問の結果によれば、本件建物売買契約承認の取締役会議事録は、昭和六一年三月五日に作成されたことが認められること、前記所有権移転登記の委任状によれば、登記原因が昭和六一年三月七日の売買とされていることが認められること、これらに前記のように同年二月九日の作成が認められないことに照らすと、乙第五号証の売買契約書も同年三月五日ころに作成されたものと認めるのが相当であるところ、右三月五日は一雄が肝臓癌で死亡する二日前であり、一雄が右売買契約書中の署名のようにしっかりとした筆跡の署名をすることは体力的に不可能であると考えられ、また、乙第五号証の売買契約書の写しの売主西本一雄の署名及び住所の記載部分に縦に三本の点線のようなものが写っており、原本の提出がないため右点線の原因は定かではないが、原告ら主張のように雄一郎が一雄の真正な署名及び住所の記載されたものを右売買契約書の売主の住所氏名欄に貼付してコピーしたものと考えることは十分可能である。

(三)  乙第五号証の売買契約書の原本に一雄が真に署名捺印したのであれば、それをした日付で契約書を作成するのが普通であると考えられるのに、作成日付を二月九日にさかのぼらせているのは不自然である。

(四)  原告西本本人尋問の結果によれば、乙第五号証の西本一雄名下の印影は一雄の実印によるものであるが、その実印は昼間は山二商店の事務所の机の引出しに入れてあり、原告西本が自由に使用することができたことが認められ、原告西本が雄一郎の求めにより同人に右実印を渡すことは十分考えられたから、右契約書に右実印が捺印されていることから右捺印が一雄の意思に基づくものと推認することはできない。

(五)  一雄が雄一郎又は原告西本に右売買契約書の売主欄に一雄の署名捺印をするように指示したことを認めるに足りる証拠は全くない。

(六)  以上によれば、乙第五号証の売買契約書の西本一雄の署名捺印を一雄又は同人が指示した者がしたものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  次に、一雄が雄一郎に前記売買の委任ないし代理権の授与をしたか否かについて検討する。

(一)  前掲甲第一〇、第一一号証、乙第一一ないし第一三号証、成立に争いがない甲第一ないし第五号証及び原告西本本人尋問の結果によれば、昭和六一年二月ころ本件土地(四一三・五五平方メートル)及び同所一〇四五番一三の土地(一四三・八八平方メートル)上に一雄及び原告西本が住居として使用していた本件建物(建面積四四・六二平方メートル)並びに山二商店所有の木造瓦葺二階建店舗(建面積一九・八三平方メートル)及び木造瓦葺二階建倉庫(建面積七九・三三平方メートル)が存在し、右両土地は一体として使用されていたこと、一雄は以前から右土地に賃貸ビルを建築したい希望を有していたが、雄一郎は調査した結果高度制限の問題もあり採算が合わないとしてこの計画の実現は難しいと考えていたことが認められる。

(二)  前掲乙第一一ないし第一三号証によれば、雄一郎は前記別件訴訟の本人尋問において、「昭和六一年二月九日ころ、金融機関から金を借りるためには右土地上の建物の名義が統一されていた方がよいという話を一雄との間でした。」と供述し、暗にそのころ一雄から雄一郎に対し、山二商店で本件建物を買い取るように指示があったかのような供述をしているが、他方では、一雄から右指示が出たのかという質問に対し出た旨の供述はしておらず、また、一雄の入院中に本件建物の話が一雄から出たのかとの質問に対し「いや」と答えていることが認められ、右指示に関する雄一郎の供述は極めてあいまいであるうえ、右二月九日ころ賃貸ビル建築の採算の点はどのように解決したのか、また、金融機関から金銭を借りる具体的な予定があったのかの点について全く説明していないことなどに照らし、右供述中右指示があったかのような部分は到底信用できない。

(三)  一雄が雄一郎に対し「山二商店はお前の会社やからとにかく好きなようにやってくれ。お前、早く社長になっておけ。」と言ったとしても、この発言から本件建物売却の委任ないし代理権の授与があったとは到底解されない。また、一雄が原告西本に対し「もう自分はだめだから仲良くいい具合にやってくれ。」と言ったとしても、この発言は相続人全員で仲良くやってくれと解することもできるから、右発言から原告西本に右委任等がなされたと解することはできず、したがって、原告西本が本件建物の売買に同意したとしても、一雄の代理人として同意したものということはできない。

(四)  その他、一雄が雄一郎に対し前記売買の委任ないし代理権の授与を明示ないし黙示にしたことを認めるに足りる証拠はない。

3  一雄が本件建物の売買契約がなされていることを知ったこと及び同契約を明示又は黙示に追認したことを認めるに足りる証拠は全くない。

4  以上によれば、一雄が被告主張のように本件建物等を山二商店に売却したものということはできない。したがってまた、右売買契約が無効である以上被告主張の1の(四)の主張も失当である。

三  よって一雄に被告主張の譲渡所得は生じていないから、これが生じたことを前提とする本件所得税等決定処分は違法である。

四  前掲乙第一二号証によれば、一雄が死亡した昭和六一年三月七日本件土地上に本件建物が存在していたことが認められるので、一雄が右当時本件土地に借地権を有していたか否かについて判断する。

1  前掲甲第四、第五、第一〇、第一一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二一号証によれば、一雄は昭和二〇年ころ本件土地及び同所一〇四五番一三の土地を右両土地の所有者田口ハツヨ及び田口ムメヨから賃借したことが認められる。

2  右甲第四、第五、第一一号証によれば、各務原物産は昭和五四年一一月六日右両土地を売買により取得したこと、その後山二商店は各務原物産に対し地代として一か月一二万円を支払ってきたことが認められる。しかし、山二商店は同会社使用部分について一雄から転貸借を受け、その転貸借料を一雄の指示で一雄が支払うべき地代として各務原物産に支払っていたとみることができるから、山二商店の右支払から直ちに同会社が一雄から右両土地の借地権全部の譲渡を受けたものと認めることはできず、他に右譲渡がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

3  したがって、一雄は本件土地に借地権を有していたということができる(なお、弁論の全趣旨によれば、原告らは前記別件訴訟において本件建物に借地権が付いていたと主張し、和解により雄一郎から右借地権を考慮した相当額の支払を受けたことが認められる。)。

五  右甲第一三号証によれば、本件土地及び同所一〇四五番一三の土地は昭和六二年二月各務原物産からロッコーマンション株式会社に二億七一四〇万円で譲渡され、その内一億三四二〇万円が右両土地の借地権価格として山二商店に支払われており、同土地上の三棟の建物の総建面積に占める本件建物の建面積の割合(一四三・七八平方メートルのうち四四・六二平方メートル、三一パーセント。)からすれば、本件建物に付着する借地権価額は昭和六一年三月の時点においても三〇〇〇万円を超えていたことは明らかである。

したがって、一雄は死亡時少なくとも時価三〇〇〇万円する借地権付きの本件建物を有していたということができる。そして、一雄が山二商店に対して有していた仮払金四五四八万三四七二円の中に本件建物等の売買代金三〇〇〇万円が貸付金として含まれていたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、弁論全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一九号証によれば、右のような事実はないことが認められる。

そうすると、原告らが申告した相続財産に三〇〇〇万円を加算すべきであることに変わりがないから、本件各更正処分等は適法である。

六  よって、原告らの本件所得税等決定処分の取消しを求める請求は理由があるのでこれを容認し、その余の請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡浩 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 山野幸雄)

別表1

課税の経緯

〈省略〉

別表2

課税の経緯

〈省略〉

別表3

〈省略〉

別表4

〈省略〉

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